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本当に美味しい牛肉を提供したい 〜サトウ食品株式会社常務取締役 佐藤理香さん〜

はじめに

いきなりで失礼ですが、読者の皆さんに質問です。

本当に美味しいものを食べたことがありますか?

はいと答えた方はなぜおいしいと思ったのでしょうか?

実際、僕は本当に美味しいものを食べたことがあるかどうかわかりません。しかし、値段が高いものを食べたときはなぜだか美味しいと感じます。本当に美味しいのかもしれませんが、それは錯覚であるかもしれません。日本では「高いもの=いいもの」という概念がついて離れません。今回取材したサトウ食品さんは本当に美味しい牛肉を提供するということを志に事業を行っています。本当に美味しいものって果たして何なのでしょうか?

 

【サトウ食品の事業内容】

サトウ食品では主に国産黒毛和牛を取り扱っています。その中でも三重県産牛・松阪牛をおもに取り扱っています。昔は三重県産のランクの良いものを松阪牛とされていましたが狂牛病の問題、トレサビリティ法以来、松阪牛の定義が変わってしまいました。以前は但馬の血統のメス牛で500日以上肥育されたA5・B5ランクの牛のみを松阪牛としていましたが、今の松阪牛は松阪市を中心とする22市町村の地域の中で育てられる期間が他の地域よりも長く、最後に育てられた地域であればどの牛でも松阪牛となってしまいました。日本で肉食が再開された明治以降、最高に美味しい牛肉は但馬の血統のメス牛を長期肥育したものと言われてきました。但馬血統の牛は長期肥育しなければその素晴らしさが発揮されないのです。サトウ食品では世界一美味しいステーキハウスを作りたいという社長の志で、但馬血統のメス牛で長期肥育(36ヶ月以上)された牛肉を主に取り扱った築地さとうを展開しています。他にも銀座にお惣菜専門の店舗の運営や、吉祥寺のメンチカツのお店、ステーキハウスの運営を行っています。

 地域から外れてしまった農家さんの牛肉は松阪牛というブランドが無くなってしまいます。そうなると途端に値段が下がってしまうのです。必然的に農家さんも収入が減ってやる気をなくしてしまいますよね。ただでさえ但馬の子牛は子牛農家から購入するのに他の子牛の1.5倍の値段がかかりますし、長期肥育はコストも手間もかかるにもかかわらず、それよりもコストも手間もかからない現在のブランドの松阪牛よりも値段が安くなってしまっています。このままでは本当に美味しい但馬血統の牛肉がなくなってしまうと危惧した社長が、松阪牛と同じ値段で買うという約束のもと契約農家さんに但馬血統のメス牛を昔ながらの育て方で長期肥育してもらっています。そしてその牛肉は“いにしえの牛肉”という新たなブランドとして商標登録をとりました。残念ながらまだ世の中には浸透していないのですが…。ですから、“いにしえの牛肉”を松阪牛などのブランド牛と同じくらい有名にするのが目標です。

築地さとうの入り口

写真:築地さとうの入り口

【お客様に牛肉を提供するまで】

契約農家さんから出荷された牛はまず、と畜のためにJAを通し枝肉の状態にします。ここで本来であれば卸業者がせりでその枝肉を買ってきてからその後に仲卸業者を通じて部分肉にして肉屋に届くという流れになります。ですが当社では枝肉の状態から仕入れて、脱骨から部分肉にするまで全てを自社で行っています。牛肉はもともと値段が高いですが、それに加えて卸業者や仲卸業者の人件費などがかかるともっと高くなってしまいます。

築地さとうが扱っている牛肉を卸業者に通した場合、3倍以上の価格になってしまうと思います。当社は美味しいものをより多くの人に安く提供したいと思ってこのような形態にしています。

 

【佐藤理香さんの会社での業務】

 現在、昼は本社での取材対応の業務、HACCPが法制化されるということなので、それに関わる仕事などをしています。午後は築地さとうで若女将として働いています。また工場や各店舗での最先端技術の機械などの導入も検討しています。最先端の科学技術を使った機械で、もともと良い素材をもっとより良くして提供できるにはどうすればよいかを研究しています。

 やはり美味しい素材というのは大事ですがそれをより美味しいものにするためには鉄板であったり、調理器具や機械もより良いものを導入することがとても大切だと思っています。

今もお客様には「美味しい」と言っていただけますが、様々な最新技術などを取り入れ、より良いものを提供できるように更に進化し続けていきたいです。

 しかし最近は後継者問題などで子牛農家さんが減少し牛肉の高騰が続いているので、できるだけ値段を変えずに今のクオリティを保ち続けるということが課題です。

【この仕事を選んだ理由】

 私は小さいころからサトウの牛肉を食べて育ってきました。飲食業界にいると色々と美味しいものを食べる機会が子どもの頃からあったのですが、一番好きな食べ物はサトウの牛肉でそれは今も変わりません。

大学生のときに友達と某チェーン店の牛丼屋へ行って、初めてサトウの牛肉ではない牛肉を食べたのですが、すごく胃がもたれてしまいました。その時は値段も安かったし仕方がないのかなと思っていたのですが、大人になってから他の高級店の牛肉を食べる機会がありました。その牛肉は、私の知っている牛肉と違ったんです。自分の知っている牛肉は甘くて、旨味があって甘い香りがして脂が口の中で溶けていくもの。ですがそこの牛肉は無味無臭でした。その時改めて自分のところの牛肉は本当に美味しいんだと思いました。

 私には兄弟がいますが誰もこの会社を継がないことになり、以前から人生最後の食事はサトウの牛肉と決めていたので「これは私が継がないと食べられなくなってしまう」と思って跡を継ぐことにしたのがきっかけです(笑)。そして子供のときから愛着のある店がなくなってしまうのはとても悲しいですし、和牛は今世界中から高く評価されているので世界に誇る美味しい牛肉を後世に残していきたいと思いました。

【この仕事でのやりがい】

やはり、自分が愛する牛肉をお客様から美味しかったと言っていただけることが本当に嬉しいです。

そしてステーキレボリューションというフランスのドキュメンタリー映画で築地さとうの牛肉が世界で3位に選ばれたんです。その時は本当にやっていてよかったなと思いました。日本ではその映画は単館上映だったのですが、肉食文化の国では結構流行ったみたいでその映画を見て1位・2位の店を食べ歩いた外国の方が来店されて、「日本の牛肉は別物。海外の牛肉と同じ基準で比べるのは難しい」とおしゃっていました。海外の牛肉は赤身肉で熟成して柔らかくしたものを食べるという文化ですが、それに対して日本の牛肉は霜降りの牛肉で熟成というより肥育段階で手間をかけて作ります。人それぞれの好みもありますし、私は自分の育ってきた環境で食べていたサトウの牛肉が一番美味しいと感じますが、赤身のお肉を食べて育った人はそれが一番美味しいと感じるでしょうし、神戸牛が一番美味しいという方もいれば、うちの牛肉が一番美味しいと言ってくださる方もいます。それは賛否両論あっていいと思います。ですが、そういった様々な価値観がある中で海外の方に評価していただいて3位に選ばれたということは本当に嬉しかったです。

そして3位だったことでまた更に上を目指そうと思えたので、3位という順位はちょうど良かったのではないかと思います

 

【大切にしているのは人との関係】

 牛農家さんの仕事って本当に大変で、同じ肥育法をしていても牛によって牛肉の味も変わってしまうし、生き物の世話をしなければいけないので休みもない。そんななかで、社長の牛肉への情熱に共感して素晴らしい牛を作ってくれている方たちにはそれなりの敬意や報酬を払わなければならないですし、信頼関係をとても大事にしています。

 そして卸売業者を仲介せず直接消費者に牛肉が届くことで、農家さんにお客様の声をフィードバックできます。その意見を参考にしながらエサの配合を変えたり試行錯誤することでより良いものが作れます。自社だけが仲介することによって生産者の方と消費者の方を直接繋ぐことができるのです。

 作ったら作りっぱなし、売ったら売りっぱなし、そんな状態ではより良いものは作れないと、社長自身が契約農家さんと切磋琢磨してより良いものを作ろうと取り組んでいます。農家さんも同じ志を持ってとても真剣に取り組んでくださっているので、本当にありがたいです。

 

【世界三位になった。今後のビジョンとは】

今の日本では「ブランド=美味しい」になってしまっていて、そのために“いにしえの牛肉”というブランドを作りましたが、ブランドではなくても美味しいものはたくさんあります。ですから、ブランドは関係なく本当に美味しいものをお客様に提供し続けていきたいと思っています。そしてブランド=美味しいという概念を壊して、本当に美味しい牛肉を日本に残していきたいです。

【編集後記】

 今回の取材で身に染みて感じたことは、サトウ食品さんの人との出会いや、つながりをとても大切にしているということです。取材で店に入ると従業員の方がとても丁寧に案内をしてくださいました。そしてもう一つ感じたことは従業員の方と理香さんとの仲の良さです。普通、社員とアルバイトはとても距離があることが多いですが、ここではリスペクトは持ちながらも距離が本当に近いのだと感じました。良い料理、良いサービスを提供することはとても大切だと思いますが、やはりお客様に本当に良いものを提供できているのはサトウ食品に務める方々の関係が良好だからなのだと思いました。

自分も人との関係を大切に活動していきたいと感じました。


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