HSPって知ってる? ~吉田光さん取材~
はじめに
皆さんはHSP(Highly Sensitive Person)という言葉をご存知ですか?私はこの取材をするまで、HSPという言葉を耳にしたことがありませんでした。それは「生まれつき刺激に敏感で、周りからの刺激を過度に受け取ってしまう人」のことを表します。今回は、Apatite設立当時からお世話になっており、自身もHSPである吉田光さんにお話を伺いました。
~吉田光(よしだひかり)さん~
某ベンチャー企業勤務。2011年学習院大学に進学し、同年9月に日本初の学生即興演劇団体
「劇団しおむすび」の立ち上げに関わりそのまま入団する。現在は同劇団を退団し、HSPと表現活動の両面で活動をしている。
Q.吉田さん自身がHSPだと気付いたのはいつ頃ですか?
A.今年(2018年)の2月です。結構最近ですね!当時HSPという言葉は当然知りませんでした。知ったきっかけというのが有名な声優の細谷佳正さんと安元洋貴さんが2人でやっている「天才軍師」というネットラジオでした。僕はその細谷さんのタレントとしてのキャラクターがすごく天然なところに、シンパシーを感じていました。そんな時、細谷さんが2017年の5月くらいに体を壊して4か月くらい活動休止したんです。休養中に読んでいた本がイルセ・サンというデンマークの心理療法士が書いた「鈍感な世界に生きる敏感な人たち」というもので、細谷さんはこれを読んで、自分のことについて書いてある!と驚いたそうです。細谷さんにシンパシーを感じていた僕はその本を読んでみることにしました。そしたら、これは僕のことだな!と驚きました。この本の目次で、自分に当てはまる項目がほとんどだったのですが、これを読み終わった瞬間にやはり自分に該当するものが多いと思ったんです。しかも、本の巻頭にHSP自己診断テストというものがあり、60点以上だとHSPの可能性があると言われていて、その診断で僕は92点でした。ぶっちぎりでしたね(笑)これを読んだ後で、「あ、これ僕HSPだな」と気づきました。
写真:鈍感な世界に生きる敏感な人たち
Q.吉田さん自身がHSPであると気付いた時にどう思いましたか?
A.ようやく辿り着いた!と思いましたね。ようやくこれと出会った、僕は25年間これを待っていたというような感じです。25年間生きていてHSPという言葉に巡り合えたのは本当に救いでしたね。僕、小学生の低学年頃から周りとのズレのようなものを感じていて…。何かちょっと他の人と感覚や認識が違うなと思っていたんです。それがいじめにつながったりしたんですよ。自分が感じていたことが意外と他の人はそう感じてなかったりして。例を挙げると、一緒に誰かと映画を観た時です。映画を観終わった時に、僕は一緒に見た人の数倍疲れてしまうのです。家族で映画に行った時も僕だけ疲れ方が違うんですよ。4人の中で僕だけクタクタっておかしいと思うじゃないですか。その時にやっぱり僕って何か違うんだな、変なんだなと認識せざるを得ませんでした。現在の社会って多数派が実権を握りますよね。その中で「変」というのは結構怖いことなんです。自分が変であることを受け入れることって実はものすごく怖いことで、多分ほとんどの人にとって受け入れたくないことなんですよね。
変だということは何かやばい人間なのか、頭おかしいのかな、社会に適合できないのかなと色々ネガティブな方向に考えてしまうんですよ。だけど、HSPというカテゴライズになったら、自分は別に変ではないんだ、HSPなのだということを、名前を与えられるだけで相当救われたんです。別に変じゃないんだ、5人に1人だし、30人のクラスだったら6人はHSPだから僕はそのカテゴライズなんだなと考えたら、ああ良かったと思いました。HSPの特徴を知れば知るほど、僕はHSPだから他の人とは違うんだということがはっきりと分かったんですよ。他の人と同じになる必要もないのだということも分かりました。ただ、HSPであることを言い訳にはしないです。言い訳にはしないけど、自分の特徴はこうだからしょうがないことなんだということを受け入れる。じゃあ、この能力を世界にどう使っていくというところで考えていけば良い。だから、HSPって実は出発点なんですよね。
―自分がHSPであると気付かずに悩んでいる人も多いと思うのですが、それに気付けるようにするにはどうしたら良いのでしょうか?
A.やはりHSPという概念と出会うしかないと思います。HSPと出会うきっかけなんですよ。で
すがテレビでたくさん取り上げられているわけでもないし、そもそもこの日本で心理学とかスピリチュアルな話って穿った目で見られがちじゃないですか。何故なら科学的根拠がないから。それに、精神系の話をすると鬱なのかと思われてちょっとやばい人に見られてしまうこともあります。だからこそ、そういう話って表に出づらいと思うんです。
Q.HSPと出会うきっかけとして、何かイベントなどは考えていますか?
A.今考えているのは、HSPとは何か伝えること、HSPの情報交換や感覚の共有ができるようなイベントですね。規模は大きければ大きいほど良いと思うのですが、まずは10人程度でやろうと思っています。他には、個人セッションみたいなこともやろうと考えています。オンライン、オフラインでできるようにしたいですね。ほかにも結構色々考えています!HSPに関しては僕自身がすごく救われて、前に進むことが出来たので。
―同じように不安を抱えた人の助けになりたいということでしょうか?
A.助けというか、味方でありたいですね。結構、自分って変なんだ…という風になった時に周りが敵に見えてくるんですよ。攻撃してくるみたいな感じで。そんな時に、そんなことはないと伝えたいです。色んな刺激を受けてその対処法が分からないからそういう風になってしまうんですよね。だからこそ悩みやすいし、自分のことについて深く考えてしまうので、そういう意味では鬱になりやすいというのはあるのかもしれないですね。何よりも今の社会だと刺激が多すぎて抑圧されてしまう。結構、学生時代を思い返してみるとやっぱり大人しい子がいじめの標的になったりするじゃないですか。多分、いじめを経験したHSPの方って多いと思うんですよ。何故ならズレがあるし、理解されなかったり理解しづらかったりするから。やっぱり、多数派って理解しづらいものに対して攻撃を加えてしまうんですよね。それで傷ついた経験から傷を癒されないまま過ごしてきた人もいるんです。僕は、その傷を治す専門家ではないけれど、それは違うよ、それはきつかったねと話をすることはできる。具体的にセラピーの方法を試してみようかということはできないけど、話を聞くことはできる。僕はそれがすごいプライスレスだと感じます。
Q.HSPで良かったことはありますか?
A.間違いなく今の仕事ですね!僕、某ベンチャー企業に勤めているのですが、言われて嬉しかったことがあって、「良く気付くよね」って言われたことがあるんですよ。人の状態だったりとか、仕事の組織構図とか…。例えば、僕らの仕事内容は営業にフォーカスを当てて、ご支援をさせて頂くというものなのですが、そのクライアントの営業状況を説明された時にどこを直せば良いのかというのが何となく分かるんですよ。機械の歯車でいうなら、ここに油をさせばもっと上手く回るなとか、頭の中ですぐに気づくんですよ。それが他の人は気付かないということに驚きました。だからこそもっと効率化するためにはこうしたら良いなとか、要するに発想がクリエイティブなんですよね。逆に1日50件電話をかける仕事のように、業務化する仕事は向かないです。答えがないことを探求するのがすごく好きです。それはHSPの特徴の一つですね。色んなことを吸収出来て、深く考えられるからこそ、想像力や内的世界がとても豊かなのです。だから、もっと色んなことを提案できる、それはHSPが社会にできる貢献の一つだと僕は思います。
Q.表現活動(演劇や音楽の活動など)を色々やっていると聞きました。そのきっかけとは?どうして色んなことにチャレンジしているのですか?
A.ご存じの通り、僕は劇団しおむすびというところに在籍していたんですけど、大学卒業しても就職せずにそこにいたんですよ。劇団しおむすびで何をやっていたかというと、インプロバイザー(即興演者)とたまにやってくる脚本のお芝居の講演です。それに加えて制作運営や団体運営面などの裏方の仕事ですね。裏方の仕事は殆ど僕が担っていて、どうしたらもっと集客出来るだろうというのをすごく考えていたんですね。そうしたら、頭が固くなってしまいました。全部僕がやっていると考えたら、僕がやらなきゃダメなんだ!という責任感を持つようになってしまったんです。それがいつの間にか自分が団体の成長を妨げてしまうことも起こりう
るのではないか?と思ったんです。だから一人で色々勉強してみようと思って去年はほとんどしおむすびの活動には参加しなかったです。何をやっていたかというと、元々知っていた実力のある演技指導者さんの元で1年間勉強していました。その結果が、ボロボロだったんです。その時本当に悩んで、鬱になりかけました。寝て、目が覚めたら布団から起きたくなくて…。目を閉じたら小さい自分が雨のようにたくさん降ってきて、その自分が地面にあたるとガラスが割れるように消えてなくなるイメージが浮かんでくるんですよ。続けるべきなのか本当に悩みました。そんなときに、年末に兵庫県で、インプロマラソンという1日即興演劇をやり続けるというイベントがありました。実家が兵庫県だったので、帰省ついでに行こうかなと思ったんです。ですが、演劇をやるのがトラウマになっていて…そんな時、即興音楽をやるミュージシャンたちがいたんですよ。そのセッションマスターのギタリストさんとは以前知り合っていたのと、即興音楽をやってみたいなという思いから、埃を被ったフルートを引っ張り出して、やらせてもらいました。それがめちゃくちゃ楽しくて、音楽の力に救われたと本当に思いましたね。その時に思ったのが、もっと色んなことをやらなきゃ損だなということです。だってダンスも歌もできるし、楽器は未熟ですが(笑)。自分がもっと色んなことができるんだと分かったら、じゃあもっと色んなことを試してみたいなと思ったんです。
―新しいことや色んなことに挑戦するのは不安だと思うのですが、色んなことに積極的に挑戦していてすごいなと思いました!
A.僕ルーティーンが苦手で、新しいことをしないと生きていけないんですね(笑)。人前に立ち続けないと生きていけないし、表現し続けていかないと生きていけないんです。新しいことをしないと不安でたまらなくなるんです。同じことをし続けて大丈夫なのかな?って思っちゃう。新しい刺激のほうが僕は好きなんですよね。実はこれ、HSPではなくてHSS(High Sensation Seeking)という概念なんです。僕はHSPであり、HSSなんです。変化に富み、新奇で複雑かつ激しい感覚や刺激を求めるという特徴があります。HSPとHSSってちょっと相反するものなんです。刺激にすぐ疲れてしまうのに刺激を求めてしまうんです。だからこういう人ってすぐ疲れちゃう。新しい刺激を求めると楽しいと思いつつも、次の日ぐったり…みたいな感じです(笑)相反するものなんですけど、僕の中では両立しているんです。
Q.最後に、HSPの方々に向けて一言お願いします。
A. 「怖くないよ。」かな。HSPということを受け入れるのって抵抗がある人もいると思うんですよ。僕は両親も特に厳しくなかったしこうしなきゃいけない思いは割となかったんです。でもやっぱり家庭環境で、HSPを受け入れられるかどうかって結構決まると思うんですよ。例えば頑張って勉強しなさいとか言われているような人ってこうしなきゃとかああしなきゃいけないとか、人よりも強く感じてしまうし、強く自分を締め付けがちなんですよね。だから、HSPを受け入れることは怖くないし、自分がネガティブな人の証明ではないということを僕は言いたい。無理に受け入れろとは言わないけど、それはあなたの特徴なんだから、良い意味であきらめたほうがよいかもしれない。諦めてもよいと思う。だって怖くないから。ということを伝えたいです。
~編集後記~
取材をしていていつも考えることなのですが、自分には知らないことが多すぎると思っています。知らないから相手の気持ちを理解できなかったり、無意識のうちに相手を傷つけることもあると思います。以前まではHSPという言葉自体を知らなかったので、HSPの人がいたとしてもその人の気持ちを理解するのは難しかったでしょう。ですが、今回の取材でHSPのことを知ることで少しでもHSPの人のことを理解できるようと思います。
また、今回はApatite設立当時からお世話になっている吉田さんにお話を聞かせて頂きました。HSPであることを受け入れて、同じ悩みを持った人の味方でありたいと行動する姿勢や、演劇や音楽など様々なことに挑戦する姿勢が素直に格好良いなと思いました。お話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました!
編集者:小田夕里彩
吉田さんとApatiteの押久保が繰り広げるむさすぎるラジオ
吉田さんの表現団体サイトはこちら